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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)255号 判決 1966年12月06日

上告人(原告・控訴人) 平田市松

右訴訟代理人弁護士 清水賀一

被上告人(被告・被控訴人) 褒徳信用組合

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人清水賀一の上告理由第一点について

原判決が引用する第一審判決は、成立に争いのない甲第五号証の一ないし七、乙第一号証及び証人上原弘の証言によれば、横山スミコが横山産業有限会社、横山司の債務を保証したことを認めうる旨判示しているのであって、前掲各証拠によれば右事実の認定は、これを是認しえなくはない。したがって、原判決に所論の違法はなく、論旨は、結局、原審が適法にした事実の認定を非難するに帰し、採るをえない。

同第二点について

代物弁済の予約が成立するためには、代物弁済によって消滅すべき債権の数額が、当初より一定していることを要するものではないが、少なくとも一定しうべき基礎が定められていることを要するものと解するのが相当である。この点に関する原判示には、措辞必ずしも適切でない部分があるけれども、本件代物弁済の予約は被担保債権が不特定かつあいまいであるから無効であるとの上告人の主張に対し、原審が、右予約締結当時被上告人の主張する合計金三二八万五〇〇円の貸金債権と合計金一三〇万円の手形貸付債権が存在したとの事実を認定し、上告人の右主張を排斥したことは原判文上明らかであって、右は本件代物弁済の予約完結によって消滅すべき債権が被上告人主張の右債権であることを判示した趣旨と解せられなくはない。したがって、代物弁済によって消滅すべき債権の種類、内容及び数額が確定されていないことを前提とする論旨は理由がない。また、代物弁済の予約完結の方法について特段の合意がされなかったからといって当該予約を無効とすべき根拠はない。

論旨はすべて採用に値しない。

<以下省略>

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)

上告代理人清水賀一の上告理由

第一点<省略>

第二点原判決は理由中で「本件で問題となっている代物弁済予約においては当初本件建物及び土地につき代物弁済額が合意せられていなかったことを認定することができる。思うに代物弁済予約においては代物弁済額が当初より合意せられるのが通例であるけれども、当初これが合意せられなかったからとて必ずしも右予約を無効とすべきでなく、要は代物弁済予約完結までに合意せられることを以て足ると解すべく」と判示している。しかしながら、本件で問題となっている代物弁済予約は建物及び土地につき代物弁済額が合意せられていないのみでなく、その被担保債権の種類、内容、予約完結の方法等一切が合意されていないのであって、ただ、右土地登記簿に代物弁済予約を原因とする仮登記が存するのみである。ところで、代物弁済予約には売買の予約に関する規定が準用される(民法第五五六条、五五九条)のであるが、売買の予約には本契約の要素を定める必要があるものとされている(我妻民法講義債権各論中巻一、二五六頁)。もっとも判例によると、売買予約に在ては買主が売買完結の意思を表示すべき時に於ける時価を以て売買代金と定めているときは、売買代金を確定しなくとも右予約は有効である(大判大正十、三、十一判例民法大正十年度三八)とされているがいずれにしても代金額又は右代金額を決定する要件が特約されていなければかかる予約は無効である。

これを本件についてみると、本件土地、建物をどのような債権の、幾何の債権額の代物弁済にするのか、又代物弁済予約完結の方法はどうするのかについて約定されていることが本件予約有効の要件であり、少くとも前記大審院判例の判旨からしても代物弁済される債権額の特定について右予約締結時に何等かの約定がなされていることが必要である。しかるに本件代物弁済予約においては建物及び土地につき代物弁済額は定められておらず、又、右代物弁済額を確定する方法についても何の約定もなされていないから、かかる代物弁済予約は無効なものというべきである。仮りに、本件代物弁済予約の如く、代物弁済額、代物弁済される債権の種類、内容、代物弁済額特定の方法、予約完結の方法等が全く定められていない代物弁済予約をも無条件に有効とし、右予約による仮登記後に右物件に登記したる利害関係人は将来物件所有者と仮登記権利者が通謀して代物弁済を完結してその登記を経た以上右仮登記権利者に対抗し得ないものとすることは、物件所有者と仮登記権利者との通謀による執行免脱を容易にし第三者を害すること甚大である。

要するに原判決は代物弁済予約に関する法令、判例に違背して無効の代物弁済予約を有効なものと認めたもので、右違背が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破毀されるべきである。

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